短歌を詠む際に最も重要なのが「五七五七七」の音律を正しく守ることです。しかし、多くの人が「文字数」と「音数」を混同し、正確に数えられずに困っています。
短歌を始めたばかりの方にとって、音数の数え方は大きな壁となりがちです。この記事では、短歌の音数を正確に数える方法を、具体例とともにわかりやすく解説します。
短歌の数え方とは?基本の「五七五七七」を理解しよう
短歌は31音からなる日本の伝統的な定型詩で、「五七五七七」の音律で構成されています。この音律は「モーラ」という音韻の最小単位で数えることが基本です。
多くの人が「文字数で数える」と誤解していますが、実際は「音の数」で数えるのが正しい方法です。例えば「きょう」は2文字ですが、音数としては2拍(キョ・ウ)となります。
短歌の構成と音数の基本ルール
短歌は5つの句から構成され、それぞれ決められた音数を持ちます。第一句が5音、第二句が7音、第三句が5音、第四句が7音、第五句が7音の計31音で構成されます。
この構成は「上の句」(第一句~第三句の五七五)と「下の句」(第四句・第五句の七七)に分けられ、それぞれが意味のまとまりを持ちます。音律を守ることで、短歌特有のリズム感と美しさが生まれるのです。
古来より短歌は口承文学として発達してきたため、声に出して読んだときの音の響きとリズムが何より重要視されています。
「文字数」と「音数」の違いを知ろう
短歌を数える上で最も重要なのが、文字数と音数の違いを正確に理解することです。文字数は視覚的な文字の個数を、音数は発音したときの音の単位数を指します。
| 例 | 文字数 | 音数 | 説明 |
|---|---|---|---|
| きょう | 2文字 | 2音 | キョ・ウで2拍 |
| がっこう | 4文字 | 4音 | ガ・ッ・コ・ウで4拍 |
| じいさん | 4文字 | 4音 | ジ・イ・サ・ンで4拍 |
| しゃしん | 3文字 | 3音 | シャ・シ・ンで3拍 |
日本語の音数は「モーラ」という概念で測定されます。1モーラは発音に要する時間的な単位であり、基本的に一定の長さを持つ音の単位です。
短歌の音数を数える準備:日本語の音韻構造
短歌の音数を正確に数えるためには、日本語の音韻構造について基本的な知識を身につける必要があります。特に「モーラ」の概念と特殊音の扱い方を理解することが重要です。
モーラ(拍)の基本概念を理解する
モーラは日本語音韻学における時間的単位で、音の長さを測る基準となります。1モーラは基本的に同じ時間で発音される音の単位で、短歌の音律はこのモーラで数えられます。
通常の仮名(あ・か・さなど)は1モーラですが、特殊な音(促音・長音・拗音など)も状況に応じて1モーラとして数えられます。この規則を理解することで、正確な音数計算ができるようになります。
モーラの概念は、短歌だけでなく俳句や都々逸など、日本の定型詩全般に共通する重要な基礎知識です。
特殊音の種類と特徴
日本語には通常の仮名以外に、特別な規則で数える音があります。促音(っ)、長音(ー)、拗音(ゃゅょ)などの特殊音は、短歌の音数計算で間違いやすいポイントです。
促音(っ)の数え方
促音「っ」は、次に続く子音を詰まらせる音で、独立した1モーラとして数えます。例えば「がっこう」は「が・っ・こ・う」の4モーラです。
促音は小さく書かれますが、音数を数える際は他の文字と同等の価値を持ちます。「切手(きって)」「雑誌(ざっし)」「発表(はっぴょう)」なども、促音を含めて正確に数える必要があります。
長音(ー)の数え方
長音記号「ー」やのばし音(ああ、おお等)は、それぞれ独立した1モーラとして数えます。「コーヒー」は「コ・ー・ヒ・ー」で4モーラ、「おとうさん」は「お・と・う・さ・ん」で5モーラです。
カタカナ語でよく使われる長音記号も、ひらがなののばし音も同様の規則で数えます。現代短歌では外来語も多用されるため、この規則の理解は特に重要です。
拗音(ゃゅょ)の数え方
拗音「ゃゅょ」は、直前の音と組み合わせて1モーラを構成します。「きょう」は「キョ・ウ」で2モーラ、「しゃしん」は「シャ・シ・ン」で3モーラとして数えます。
拗音は小さく書かれる仮名ですが、前の仮名と一体となって1つの音を形成するため、単独では数えません。「今日(きょう)」「写真(しゃしん)」「牛乳(ぎゅうにゅう)」などで練習してみましょう。
【実践編】短歌の音数を数える手順
ここからは実際に短歌の音数を数える具体的な手順を学びます。3つのステップを順番に実行することで、誰でも正確に短歌の音数を数えることができるようになります。
ます。これを5つの句に分けると以下のようになります。
- 第一句:ふるさとの(5音)
- 第二句:なまりなつかし(7音)
- 第三句:停車場の(5音)
- 第四句:人ごみの中に(7音)
- 第五句:そを聞きにゆく(7音)
句の区切りが明確でない場合は、意味や文脈を考慮して自然な区切りを見つけることが大
句ごとに分けたら、それぞれの音数を仮名に分解して数えます。特殊音の規則を思い出しながら、一つ一つ丁寧に数えることが正確性の鍵です。
上の句(五七五)の数え方
上の句の3つの句を順番に数えていきます。第一句「ふるさとの」は「ふ・る・さ・と・の」で5音、第二句「なまりなつかし」は「な・ま・り・な・つ・か・し」で7音です。
第三句「停車場の」は「て・い・し・ゃ・ば・の」となりますが、「しゃ」は拗音なので「し」と「ゃ」で1モーラです。従って「て・い・しゃ・ば・の」で5音となります。
下の句(七七)の数え方
下の句も同様に数えます。第四句「人ごみの中に」は「ひ・と・ご・み・の・な・か・に」で8音となり、実際には字余りの句となっています。
第五句「そを聞きにゆく」は「そ・を・き・き・に・ゆ・く」で7音です。このように実際の短歌では、必ずしも厳密に音数が守られているとは限りません。
各句の音数を確認したら、全体が「五七五七七」の31音になっているかチェックします。もし音数が合わない場合は、特殊音の数え方や句の区切りを再確認してみましょう。
| 句 | 内容 | 音数 | 確認 |
|---|---|---|---|
| 第一句 | ふるさとの | 5音 | ✓ |
| 第二句 | なまりなつかし | 7音 | ✓ |
| 第三句 | 停車場の | 5音 | ✓ |
| 第四句 | 人ごみの中に | 8音 | 字余り |
| 第五句 | そを聞きにゆく | 7音 | ✓ |
音数が合わない場合でも、それが意図的な表現技法である可能性もあるため、作者の意図を考慮することも重
短歌の数え方でよくある間違いと注意点
短歌の音数を数える際に多くの人が陥りやすい間違いがあります。これらの典型的なミスを理解し、対策を知ることで正確な音数計算ができるようになります。
文字数で数えてしまう間違い
最も多い間違いが、音数ではなく文字数で数えてしまうことです。「今日(きょう)」を1文字と数えたり、「学校(がっこう)」を3文字として数えたりする間違いが頻繁に見られます。
正しくは「今日」は「き・ょ・う」で3音、「学校」は「が・っ・こ・う」で4音として数えます。視覚的な文字数ではなく、発音したときの音の数を意識することが重要です。
特に漢字が含まれる短歌では、漢字の読み方を正確に把握してから音数を数える習慣を身につけましょう。
特殊音の数え間違い
促音、長音、拗音などの特殊音で間違いやすいパターンがあります。特に「っ」を数え忘れたり、拗音を2つの音として数えたりする間違いが多く見られます。
例えば「切手」を「き・て」の2音と数えてしまう(正しくは「き・っ・て」の3音)、「今朝」を「け・さ」の2音と数えてしまう(正しくは「け・さ」で2音は正解)などの間違いがあります。
特殊音が含まれる単語は、ゆっくりと発音しながら一つずつ確認する習慣をつけることが大切です。
字余り・字足らずの判定方法
短歌では規定の音数より多い「字余り」や少ない「字足らず」の句が意図的に使われることがあります。これらは詩的効果を狙った技法であり、必ずしも間違いではないことを理解しておきましょう。
字余りは句に重みや印象深さを与え、字足らずは軽やかさやスピード感を演出します。現代短歌では特に、表現の幅を広げるために意図的に音律を崩すことも多く見られます。
ただし初心者の場合は、まず基本の「五七五七七」を正確に守れるようになってから、こうした応用技法に挑戦することをおすすめします。
応用編:難しいケースの数え方をマスターしよう
基本的な数え方をマスターしたら、より複雑なケースにも対応できるようになりましょう。現代語と古語の違い、外来語の扱い方、実際の名作短歌での応用例を学ぶことで理解が深まります。
現代語と古語の数え方の違い
古典短歌と現代短歌では、使用される語彙や表記法に違いがあります。古語では「けふ(今日)」「をとこ(男)」など、現代とは異なる表記や読み方をする言葉があります。
例えば古典の「けふ」は「け・ふ」で2音、現代語の「きょう」は「きょ・う」で2音と、結果的に同じ音数になることが多いですが、中には音数が変わる場合もあります。
古典短歌を扱う際は、その時代の言葉の読み方や音数を調べてから数えることが重要です。
外来語・カタカナ語の数え方
現代短歌では外来語やカタカナ語が頻繁に使われます。これらの語も基本的な音数の規則に従って数えますが、長音記号の扱いに特に注意が必要です。
「コンピューター」は「コ・ン・ピ・ュ・ー・タ・ー」で7音、「インターネット」は「イ・ン・タ・ー・ネ・ッ・ト」で7音として数えます。外来語特有の音の組み合わせも、基本ルールを適用すれば正確に数えられます。
カタカナ語では、促音や長音が多用されるため、これらの特殊音を見落とさないよう注意深く確認することが大切です。
有名短歌で実際に数えてみよう
実際の名作短歌を使って音数の数え方を練習してみましょう。石川啄木の「はたらけど はたらけど猶 わが生活 楽にならざり じっと手を見る」を例に解説します。
- はたらけど:は・た・ら・け・ど(5音)
- はたらけど猶:は・た・ら・け・ど・な・お(7音)
- わが生活:わ・が・せ・い・か・つ(6音)→字足らず
- 楽にならざり:ら・く・に・な・ら・ざ・り(7音)
- じっと手を見る:じ・っ・と・て・を・み・る(7音)
この短歌では第三句が6音の字足らずになっており、これが独特のリズム感を生み出しています。名作短歌には音律を意図的に崩した表現技法が使われていることも多く、学習の良い教材となります。
短歌の数え方をマスターして美しい短歌を作ろう
短歌の音数を正確に数える技術を身につけることで、より美しい短歌を創作できるようになります。正確な音律は短歌の基礎であり、これを守ることで伝統的な美しさを持った作品を生み出せます。
正確な音数で詠む短歌の魅力
「五七五七七」の音律を正確に守った短歌は、声に出して読んだときの心地よいリズム感が生まれます。この定型のリズムが、日本人の心に深く響く音楽性を短歌に与えているのです。
また正確な音数を意識することで、限られた音数の中で最も効果的な言葉選びができるようになります。制約があるからこそ生まれる凝縮された表現の美しさが、短歌の大きな魅力の一つです。
音数を正確に数える技術は、短歌を鑑賞する際の理解も深め、作者の技巧や意図をより深く読み取れるようになります。
次のステップ:短歌作りに挑戦してみよう
音数の数え方をマスターしたら、実際に短歌の創作に挑戦してみましょう。最初は身近な出来事や感情を「五七五七七」の型に当てはめる練習から始めることをおすすめします。
日記のような気持ちで、その日感じたことや見た風景を短歌にしてみてください。音数を数えながら言葉を選ぶ過程で、より豊かな表現力が身についていきます。
短歌は千年以上続く日本の伝統文学であり、正確な音数で詠むことで、その長い歴史と文化の一部に参加することができるのです。
この記事で学んだ短歌の音数の数え方を活用して、美しい日本の定型詩の世界を楽しんでください。正確な音数計算ができるようになることで、短歌の創作も鑑賞も、より深い次元で楽しめるようになるでしょう。
短歌の数え方に関するよくある質問
- 短歌の音数と文字数は同じですか?
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いいえ、同じではありません。短歌は「音数」で数えるのが基本です。例えば「今日(きょう)」は2文字ですが、発音すると「きょ・う」で2音(モーラ)になります。文字数ではなく、声に出したときの音を数えることが重要です。
- 短歌の数え方で、促音の「っ」はどのように数えますか?
-
促音「っ」は独立した1モーラとして数えます。
例:「学校(がっこう)」→「が・っ・こ・う」で4音
小さく書かれていても数に含めます。「切手(きって)」「雑誌(ざっし)」も同様です。
- 拗音(ゃゅょ)の数え方がわかりません
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拗音「ゃゅょ」は直前の音と一体となって1モーラを形成します。単独では数えません。
例:
「今日(きょう)」→「きょ・う」で2音
「写真(しゃしん)」→「しゃ・し・ん」で3音 - 字余りや字足らずは間違いですか?
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必ずしも間違いではありません。字余りは句に重みや印象を与え、字足らずは軽やかさやスピード感を出す技法です。初心者はまず基本の「五七五七七」を正確に数える練習をしましょう。
- カタカナの外来語はどう数えますか?
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基本的に通常の音数ルールと同じです。長音記号「ー」も1モーラとして数えます。
例:
「コンピューター」→「コ・ン・ピ・ュ・ー・タ・ー」で7音
「インターネット」→「イ・ン・タ・ー・ネ・ッ・ト」で7音 - 短歌の音数を数えるのが難しい場合はどうすればよいですか?
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まず句ごとに区切り、仮名に分解して1つずつ音を数える練習をしましょう。特殊音(促音・長音・拗音)に注意しながら、声に出して読むと正確に数えやすくなります。名作短歌を例に練習するのもおすすめです。

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